「アエラ」2005年1月24日号に,「B型をいじめるな」という記事が出ている.日本を起源とする「血液型と性格に関連がある」という説が韓国でも普及しており,韓国で人気を集めた「B型の男」という歌の内容がB型の人を貶める内容だと問題になったこと,日本では血液型と性格の関係を取り扱うテレビ番組が最近急増しており,放送倫理・番組向上機構(BPO)から放送局に「配慮」が要請されたこと,などが報じられている.
この記事中でも述べられているが,この問題の難しさは,何かが「ない」ことを証明することは原理的に不可能,ということにある.こういうときに,データを集めて「傾向」を調べるのに用いられるのが統計学である.「関連がある」という説も,統計学を使って説明されていることが多い.だが,その中には次のような誤りを犯しているものが多々見られる.
1.「血液型と性格に関連がある」ことを示すために,次のような「検定」という方法がとられることがある.
A型の人何人かとB型の人何人かに性格テストを行い,A型とB型との点数の差を求める.仮に「A型とB型の人で,性格に差はない」としたとき,今回のテストのような点数の差がつく確率を計算し,それが非常に小さいならば,「性格に差はない」というのは間違いだ,つまり「差がある」と結論する.
この方法では,「性格に差がないとき,今回のような点差がつく確率が小さい」ことを,「性格に差がないとき,今回のような点差がつくことはありえない」ということにおきかえてしまっている.もしも,性格テストによるデータ収集が今回のただ1回しかできないのなら,こういうおきかえをして結論を出しても,不確かではあるがいたしかたない.この考え方で,わずかなデータしか集められないときに,何とか結論を出す統計的手法が「検定」である.
だが,血液型性格関連説がはじめて唱えられてから長い年月がたっており,その間に何度も何度も性格テストが行われているし,これからもいくらでも行なることができる.それで「ごくたまに,『差がある』という結果が出る」のなら,これは「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」のと同じで,「性格に差はないが,何度も繰り返しテストしたので,小さな確率で起きることはたまには起きる」ということにすぎない,と考えるほうが妥当である.
2.「血液型と能力の『向き不向き』に関係がある」ことを示すために,次のような説明がされていることがある.
人気俳優100人の血液型を調べると,各血液型の人数の比率が,日本人全体での比率に比べて偏っていたとする.このとき,仮に「人気俳優になる資質が各血液型で同じである」としたとき,今調べたような偏った比率になる確率が小さいならば,「人気俳優になる資質には,血液型によって違いがある」と結論する.
この考え方自体は,統計学では「適合度検定」とよばれ,いくつか問題はあるものの大筋では間違った考え方ではない.
だが,問題なのは,この適合度検定の前提が「今調べた人気俳優たちは,『人気俳優になる資質のある人の集団』から無作為抽出した標本である」ということである.「無作為抽出した標本」とは,前に「無作為抽出」という記事でも書いたが,ズルのないくじびきのように,みなが同じチャンスで偶然に選ばれたもの,という意味だ.
現実の人気俳優たちは,そういう人たちだろうか.それ以前に,「人気俳優になる資質のある人の集団」などというものが本当にあるのだろうか.それをまず考えないと,上のような適合度検定の計算は無意味である.
以上のように,統計学の使い方の誤りを述べたが,血液型問題の本質は,これらの誤り以前のところにある.
研究者にとっては,はっきりした証拠はないが可能性のあることを研究するのは,有意義なことだ.だが,たしかに血液型と性格との関連は「ない」とはいえないが,「ある」という根拠が薄いのであれば,一般の人にとって「ある」と信じなければならないという必要性は見当たらない.ならば,「現時点では,ないと思われると考えて行動しても問題ない」と考えるのが科学的態度である.
「そんなことを言ったら,おもしろくない」という人もいるかもしれない.「血液型と性格の関連があると考えるほうが,おもしろい」と思う人が多いから,血液型を扱うテレビ番組がたくさん制作されるのだろう.だが,「おもしろい」というだけで性格に先入観を持たれてはたまらないし1),信じたほうがおもしろいから信じる,という態度は,聖書に書いてあることと異なるから進化説は信じない,という原理主義者と何ら変わるところはない.
ところで,よくある血液型性格診断では,「A型は堅実,B型は奔放」ということになっているらしい.最初に書いた通り,B型の人が不当に貶められることが主として問題になっているそうだが,テレビ番組等でそのように扱われるということは,「奔放」はいけないと考える人が多いのだろうか.私はA型だが,まるで「おもしろくないヤツ」と言われているように感じるので,そういう「私怨」からも血液型性格診断が私は嫌いである.
(05. 1. 18)
1) 同じ「アエラ」の2005年1月3,10日号にある,プロ野球選手の古田敦也氏へのインタビューによると,古田氏は血液型を聞かれたらウソを答えて,相手が「やっぱりそうだと思いました」と言いだすのを楽しんでいるそうだ.ちょっとイヤな人かもしれないが,おもしろい人である.