無作為抽出

フィギュアスケートの採点法が,ほぼ100年ぶりに変更されたそうだ.もっとも大きな変更点は,10人の審判全員の点数を使わず,10人から7人を「無作為抽出」して,この7人の点数だけを使って順位をつけるということである.

無作為抽出とは,簡単に言えば,公平なくじ引きで決める,ということである.どの7人が選ばれたかは選手にも審判にもわからないので,先のオリンピックで問題になった審判買収等の不正が防げる,ということである.

しかし,このことを報じるテレビニュースでも指摘されていたが,この方法には根本的欠陥がある.それは,採点結果が「運」に大きく左右される,ということである.10人の審判がつける点数には,かなりばらつきがある.もし,採点から除外される3人の審判がたまたま高い点数をつけていれば,この選手は大きく損をすることになる.また,この3人の審判がたまたま低い点数をつけていれば,この選手は大きく得をすることになる.

公平なくじびきで7人の審判が選ばれるのだから,選手同士は平等ではないか,というかもしれない.だが,それは統計学的には違う.無作為抽出は公平な方法だが,それは

無作為抽出された7人の審判の平均と,10人の審判全員の平均は異なる.異なるが,7人の平均は10人の平均に比べて大きいこともあれば小さいこともあり,長い目で見た時にどちらかが大きいという傾向はない.

という意味である.つまり,「長い目で見れば」得も損もしない,ということだ.だが,選手にとっては試合は1回1回が問題であり,「長い目で見れば」公平というのは,選手にはあまり意味がない.

採点法の変更の理由は「不正な審判の点数を除外する」ことだから,他の採点競技で行なわれているように,10人のつけた点数のうち高いほうからいくつかと低いほうからいくつかを除いて,残りの点数を使って採点する,というのではいけないのだろうか?また,今回の方法では,本当に無作為抽出されていることを証明する方法がないのも問題だと思う.

(02. 11. 7)