毎日のように,「また三菱製の自動車が火災」というニュースが報じられている.統計学を教えている立場からすれば,いやそういう立場でなくても,まったくおかしな話である.
三菱自動車が欠陥を隠す等の不祥事で問題になったのは事実だが,欠陥が原因で火災が起きているのなら,欠陥はずっと前からあったわけだから,火災もずっと前から起きているはずである.欠陥が発覚したとたんに急に燃え出すなどということが,あるわけがない.それなのに「三菱車また火災」というニュースを聞いて「やはり三菱車は危険」という印象を受けてしまうのは,「自動車が燃える」という事件には日常あまり遭遇しないからだ.
しかし,それは自分のまわりの狭い範囲を見たときの感覚であって1),日本全体では車両火災は1年間に8000件〜10000件ほど起きている.つまり1日あたり20件以上だ.だから,1日に1件程度三菱車の火災が起きたからといって,三菱車の火災が多いという証拠にはならない.三菱車の火災が多いことを示すには,各メーカーについて,現在の登録台数に対する1年間の火災発生件数の割合を示したうえで,三菱車の火災発生率が高いことを示さなければならない.
そんなことを考えていたら,「三菱車の火災次々…大半は欠陥と無関係?」という新聞記事(読売新聞7月6日)が出ていた.さんざん報道しておいていまごろ,という気もする.ただ,その記事中に
14社ある国内自動車メーカーで単純に割ると、1社当たりの年間発生件数は600件以上。ある三菱自関係者は「こういう状況下では言いにくいが」と前置きした上で、「三菱車が1日1台燃えていたとしても、統計上はおかしくない」と指摘する。
という記述がある.これもおかしい.14社の車が,それぞれ同じ台数だけ走っているわけではないから,「14社ある国内自動車メーカーで単純に割る」ことには意味がない.登録台数の多いメーカーの車の火災が多く,少ないメーカーの車の火災は少なくても,それは当たり前である.
「三菱自動車は信用をなくすことをしたのだから,叩かれても当然」という人もいるかもしれない.しかし,叩くほうも正しい根拠で叩かなければ,そちらも信用をなくすことになる.以前「懲らしめ」という記事でも書いたが,「けしからん会社だから,懲らしめてやれ」という心理は,単に溜飲を下げるだけで,生産的ではない.
それに,上の記事で「三菱自関係者」が「こういう状況下では言いにくいが」と言っているが,「悪いことをしたのだから何も反論できない」という社会は危険である.わたしたちの社会は,「盗人にも三分の理」を認める冷静で寛容なものではなかったのか.
(04. 7. 8)
1) さっき,講義の前に「1年間に車両火災は何件くらいあると思う?」とある学生に質問してみたら,「1000件くらいだと思う」という答えだった.
[05. 5. 6追記] 先日のJR西日本の脱線事故に関して,連日駅でのオーバーランが報じられるなど,三菱自動車と同じような事態がおきている.JRの電車は,急にしょっちゅうオーバーランするようになったのだろうか?また,三菱の自動車は,去年急に燃え始めて,また急に燃えなくなったのだろうか?
[05. 5. 6追記] 関連の記事として,「知識への敬意」を書きました.