「ウエストひかり」の思い出

「ウエストひかり」という列車をご存知だろうか.

国鉄時代,東海道・山陽新幹線のダイヤは東京中心に作られていたので,ひかり号は新大阪以西や岡山以西では各駅停車になるものが多かった.山陽新幹線がJR西日本の運行になって,独自のダイヤが組めるようになり走り出したのが,新大阪―博多を少ない停車駅で走る「ウエストひかり」である.

新幹線の普通車は1列5人掛けだが,「ウエストひかり」は4人掛けであった.「ウエストひかり」運行開始を伝えるポスターには上方落語の笑福亭鶴瓶さんが出演し,4通りの扮装をした4人の鶴瓶さんが同時に1列に座っている写真で目をひいた.また,カウンター式のビュッフェはテーブル式の食堂車に改装され,映画を上映するビデオカーというのもあった(ビデオカーは不人気で,後になくなった).「ウエストひかり」は当初6両編成で早朝に走り出したが,好評で12両編成となり本数も増えた.ふつうのひかり号が16両編成のうち自由席車5両なのに対して,「ウエストひかり」は12両のうち自由席車が7両と近距離客にサービスしていた.

山陽新幹線に「のぞみ」が走り始めてからは,「ウエストひかり」は停車駅が増え,新大阪―博多を短い時間で結ぶ列車ではなくなってしまった.しかし,新大阪を朝6:00に出発する「元祖ウエストひかり」の「ひかり131号」だけは,停車駅は最後まで新神戸・岡山・広島・小倉のみであった.そのころ私は福岡勤務,妻は岡山勤務で,よく月曜朝の「ひかり131号」にお世話になった.

その後,「ひかりレールスター」と入れかわりに「ウエストひかり」は全廃された.「ひかりレールスター」も1列4人掛けだが,それは指定席車だけである.しかも8両編成で自由席車3両となったため,金曜日の夜などは超満員で,指定席は早くに埋まってしまうし,広島駅で上り列車の自由席に乗るのに,列の先頭にならんでも座れないことがある.このため,割り込みなどでトラブルがよく起きている1).JR西日本は「ご好評のひかりレールスターを増発」などとぬけぬけと言っているが,編成両数を増やしてほしいという不満には耳を傾ける気配はまったくなく,客を詰め込んで儲けようという意図が見え見えである.どんな豪華列車でも,座れなければ意味がない.

現在,私は岡山―東広島を「こだま」で通勤している.「ウエストひかり」廃止後,「ウエストひかり」用の電車が6両編成に切り詰められて,「こだま」として走っている.広い座席は快適だし,かつての食堂車のテーブルはそのまま残されているので,食事をしたりパソコンと書類を広げて仕事をするのにも便利である.さらに,最近「グランドひかり」用だった電車が4両編成に切り詰められた「こだま」が走っているが,この電車の座席だけを「ウエストひかり」の1列4人掛け座席に取りかえたものも走っていて,今その列車の中でこの記事を書いている.

元「ウエストひかり」の6両編成を見たときは「静かに余生を送っているな」という感じだったが,「座席移植電車」を見たときは,「死んだ後も臓器移植されて生き続けているのか」と妙な感慨にひたってしまった.なお,この「座席移植電車」は,全国の新幹線の中でもっとも定員の少ない電車だそうである.

(01. 11. 03)

[2005. 1. 20追記] 1) 「『先に手を出したほうが悪い』」という記事(2002年6月11日)は,このときの経験を書いたものです.

※在りし日の「ひかり131号」の写真.

ウエストひかりの車内
「ウエストひかり」の車内.

ウエストひかりのマーク
グリーン車マークの下にあるのが「ウエストひかり」のマーク.

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