歴史的景観

東京・日本橋の上空を走る高速道路を撤去し,景観を回復しよう,という話が出ているそうだ.小泉首相の指示で,有識者懇談会が検討を始めるそうである.

読売新聞,産経新聞の社説1)でこの件がとりあげられている.これらの記事では,日本橋を「日本の繁栄の歴史的シンボル」「日本の原点」としており,この計画に肯定的である.

しかし,高速道路の撤去には数千億円を要するそうだ.かつて,社会主義国の崩壊の原因のひとつに,「壮大な記念碑的建築への無駄遣い」があげられていたのを忘れてしまったのだろうか.

そもそも,単に江戸の町の中心というだけの日本橋に,それほどの「歴史的価値」があるのだろうか?本当に「歴史的価値のある橋」とは,「瀬田の唐橋」のようなものをいうのではないか.なにしろ壬申の乱の舞台にもなった,古代から現代まで日本史をずっと見てきた橋である.

それに,もしも日本橋に歴史的価値があって,景観を回復するべきだというのなら,大阪の高麗橋の上空の高速道路も移設するべきである.日本橋と高麗橋は,どちらも1603年にできた幕府直轄の「公儀橋」で,どちらも街道の起点で里程元標が設置されている.さらに,高麗橋から西に延びる高麗橋通りには,日本橋近辺と同様に,三井銀行大阪支店(現三井住友銀行大阪中央支店)や三越百貨店(今はなくなったが)といった三井関係の施設があるなど,両者は非常によく似た位置づけの橋である.

もっとも,私自身は,どちらの橋も「過去と現在の交差点」であり,数千億円をかけて直さなければならないほど悪い景観だとは思わないが.

1) 読売新聞2006年2月20日付社説・「首都東京の品格を高めたい」産経新聞2006年1月17日付社説・「日本橋再生 大店の旦那衆もひとつ…」(リンクは近いうちに切れるものと思われます)

[追記] 石原東京都知事は,「高速道路を移設するのではなく,橋のほうを移設すればよい」と提案しているそうだが...橋の価値は,そこに橋があって人の交流の拠点となっている「コト」にあるのであって,石やコンクリートでできた「モノ」にあるのではないのだが.何かの皮肉なのか?

(06. 2. 22)