広島県廿日市市は,広島市の西側に隣接するベッドタウンとして知られている.広島駅から瀬戸内海沿いを走る山陽本線の下り電車に乗ると,5つ目が廿日市駅である.同じく瀬戸内海沿いを通る山陽自動車道でも,広島インターから西に2つめのインターが廿日市インターであり,広島の人なら,「廿日市」といえば,たいていそのあたりの場所を思い浮かべる(Mapionの地図参照).
だが,広島から北の山間部を東西に走る中国自動車道を西に進むと,いきなり「廿日市市」という表示が現れ,一瞬道を間違えたかと心配になる(Mapionの地図参照).これは,廿日市市が山間部の吉和村を合併して,北側に大きく拡がったためである.
吉和はスキー場があるくらいの雪の多いところで,海辺の廿日市とは気候も風土もまったく異なる.だから,吉和は吉和であって廿日市ではなく,吉和を「廿日市」とよぶのはどうしても無理を感じる.実際,ローカルニュースで吉和の話題が放送されるときは,画面には「廿日市」ではなく「廿日市市 吉和」と表示されている.
最近の市町村合併で,このようなことがあちこちで起きている.さらに,合併前のどの市町村名を残すかで揉めたあげく合併が頓挫したり,それを避けるために,どこの場所をさすのかわからないような新地名が作られたりしている.
市町村名は,地方自治体という組織の名前である以前に,地名すなわち場所の名前である.それまで,「廿日市」「吉和」と聞けばだいたいどのあたりでどんなところだと理解できていたのを,簡単になくしてしまってよいのだろうか?行政の効率化のために広域合併が必要というのであれば,合併前の市町村名はそのままで「共同行政組織」という地方自治体を作り,市町村長や市町村議会に相当する「組織長」や「組織議会」を作ればすむことだ.
今年の元日に周辺町村を合併した新潟県上越市は,旧町村をそのまま「区」ということにして名前を残している.「区」は政令指定都市にしか作れないものかと思っていたが,こういう方法もあるようだ.もっとも,「上越市」という名前自体が,高田市・直江津市が合併したときに作られたものではあるが.
(05. 1. 5)