「山形新幹線」と「秋田新幹線」のいわゆる「ミニ新幹線」は,実際には新幹線ではなく,在来線のレール幅を新幹線と同じ寸法に改築して,新幹線からの列車が在来線に直通できるようにしたものである.だから,在来線区間では特別にスピードアップをしたわけではなく単線区間での行き違いや踏み切りもあり,新幹線からの乗り換えが不要になっただけである.だが,改築にはけっこうな手間がかかり,秋田新幹線の改築の際は在来線区間を1年間運休している.また,改築後の区間を在来線列車として走るための,特別な電車も用意している.
かつて,JR東日本の社長が,ミニ新幹線建設の動機を語っていたのを何かの記事で見たことがある.それによると,社長が東京の知人に「東京から山形まで列車で行けるの?」と聞かれて,「福島まで新幹線で行って,特急つばさ号に乗り換える」と答えたら,「つばさ号なんて知らない」と言われて,「東京の人は,新幹線で直接行けるところ以外は,列車では行けず,飛行機で行かなければならないと思っている」ことに気づいた,ということだそうである.また,逆に山形や秋田から出る列車も「福島行き」ではなく「東京行き」であることに価値があるそうである.
ところが,九州では,ミニ新幹線とほぼ同じことを,ずっと安い費用で達成している.
九州新幹線は,最終的には「つばめ号」が博多−鹿児島中央間を運行することになるが,現在は新八代−鹿児島中央間しか完成しておらず,博多−新八代間は在来線列車の「リレーつばめ号」が運行している.だが,博多駅のホームでは「リレーつばめ号 鹿児島中央行き」と表示されており,車内の案内でも在来線・新幹線を通した鹿児島中央までの停車駅が案内されている.同様に,鹿児島中央駅を出発する列車も「つばめ号 博多行き」である.
新八代駅は,1階の在来線ホームと2階の新幹線ホームが交差する構造になっているが,在来線の線路が駅の北から分岐して2階のホームに上がるようになっており,2階の同じホームで新幹線と在来線が乗り継げる.乗り継ぎのための停車時間はわずか3分である.つまり,この分岐線のわずかな工事で,ミニ新幹線とほとんど同じ効果が得られているのだ.
九州では,博多・小倉−別府・大分−宮崎間でも,同じようなことが行われている.宮崎駅を出発する「にちりん号」は別府行きだが,別府駅で大分発博多行きの「ソニック号」と同じホームで乗り換えられる.そこで,宮崎では「にちりん(&ソニック)号 別府(博多)行き」と表示されている.これは,博多−大分間を高速に走行できる新型車両の「ソニック号」にそろえたためで,以前旧型車両の「にちりん号」が博多−宮崎間を通して走っていたのに比べて,わずかな乗り換えの手間はかかるが全体の到達時間は短くなった.しかも,こちらは工事費ゼロだ.
これらは,ソフトウェアの工夫で,お金をかけずに効果をあげている例である.「財政難」という言葉をあちこちで聞く昨今だが,こういう工夫ができる場面はあちこちにあるのではないだろうか.
(04. 12. 19)