衛星放送

テレビの衛星放送は,BS,CS,さらにデジタルBSとどんどん種類が増えている.わが家でも,従来の地上波テレビを見るのはニュースなどいくつかの番組だけで,「スカイパーフェクTV」などの衛星放送を見る時間のほうが多くなっている.

このようにさまざまな娯楽を提供してくれる衛星放送だが,NHKの衛星放送が始まった当初は,その第1の目的は「離島などの難視聴地域の解消」とされており,2つのチャンネルのうちの1つでは,地上波のNHKテレビと同じ内容を放送していた.

衛星放送の計画が具体化してきたころ,私が楽器を習っていた先生がこんなことを言っていた.「離島に住んでいる人間なんてほんのわずかだろう.そのわずかの人間のために,われわれの受信料を使って衛星放送をやるのか?『皆様のNHK』なら,そんなわずかの人間に金を使わずに『皆様』のために使ってくれ.」

私はそのとき,なんとこの人は心の狭い人なんだろうと思った.離島の人々は「皆様」ではないというのだろうか.自分が普通にテレビを見られれば,テレビを見られない人のことなどどうでもいいのだろうか.

私は離島に生まれ育ったわけではないが,テレビが見られない悲しさは知っている.私が育ったのは,大阪市の中心部である.大阪のテレビ放送は,大阪平野の東側の生駒山から送信されている.私が子供のころは,2階建ての家の屋根にアンテナを立てれば普通にテレビを見ることができた.しかし,周りにビルが増えるにつれ,見られるチャンネルがひとつひとつ減ってゆき,最後にはNHK教育テレビしか映らなくなった.そのうちテレビが故障したが,どうせ何も映らないから,しばらくテレビなしで過ごしていた.

その後,実家では町内で共同受信する方式になってテレビが見られるようになったが,そういう経験があったので「空から電波がやって来る」という衛星放送計画には非常に期待していた.だから,上の先生の発言は大変腹立たしかった.結局,この先生とは何かとうまくいかず,その後別の先生に習うようになるまで楽器の上達もいまひとつだった.

ところで,静止衛星は赤道上にあるため,日本からみたとき,衛星の位置の水平線からの角度(仰角)は40度〜50度程度となる.南側のその角度の方向の空が見通せないと,衛星放送は映らない.今度東広島市から広島市中心部に引っ越すことになったが,今度のマンションではCS放送の衛星の方向がちょうど隣の建物の端にかかり,映るかどうかが微妙であった.今日試してみると,「スカイパーフェクTV!」を送信している2つの衛星のうちひとつしか受信できなかった.

大阪の家で感じていた衛星放送への期待は,間違いだったことを実感した.「空から電波がやって来る」のは確かだが,「頭の上から電波が降ってくる」のではないのだ.ただ,今度のマンションではケーブルテレビも見ることができるので,今まで見ていたチャンネルのうち見られなくなるのはひとつだけなのが救いである.

(04. 4. 3)