ある雑誌で,セブンイレブンの「とろりんシュー」がよく売れているという記事を見た.私もあれは好きだ.なぜかというと,皮が薄くてやわらかく,子供のころ好きだった「ヒロタのシュークリーム」を思い出すからだ.「ヒロタのシュークリーム」の皮は「とろりんシュー」よりもさらにやわらかく,また一口で食べられるほど小ぶりだ.
最近では,もっと大きくて皮が厚く硬い,本来のシュークリーム(シュー・ア・ラ・クレーム)のほうが主流になっている.だが,子供のころは自分のまわりには皮の薄いやつしかなかったので,「正式のマナーでは,シュークリームはナイフで切ってフォークで食べる」と聞いたときは「どうやったらあれがナイフで切れるんだ?」とふしぎに思っていた.
ところで,現在では「ヒロタのシュークリーム」はひと箱4個入りで,工場で包装されて店に運ばれている.だが,昔は工場から店にバラで運ばれてきて,店で平たい折詰めのような箱に入れて売られていた.味はカスタードとチョコレートの2種類しかなかったが,それぞれをいくつずつ入れるかを買うときに指定できた.箱はさらにオレンジの包装紙で包まれ,十字に紐がかけられて客に渡されていた.
客が手土産としてもってくる「オレンジの包装紙の,十字の紐の平たい箱」は,ひと目でシュークリームとわかる特別なお土産だった.箱を開けると平たい正方形の箱に2種類のシュークリームがきれいに並んでいて,とてもおいしそうだった.今の4個入りパックになったのは,店で速く売ることができるようにするためだそうだが,平たい箱がなくなったときは,特別なお菓子からどこにでもある普通のお菓子になってしまったようで残念だった.
その後,「洋菓子のヒロタ」は2001年に経営破綻してしまった.ケーキ屋さんが手作りする「本来のシュー・ア・ラ・クレーム」のほうが人気になり,工場生産の「ヒロタのシュークリーム」は普通のお菓子どころか「大量生産の安物のお菓子」と思われるようになってしまったのが原因のひとつらしい.
現在は経営者が替わり順調に業績を回復しているそうだが,4個入りのパックはそのままだ.かつてのように平たい箱に店で並べて売るようにするのは難しいだろうが,どうかいつまでも子供に「ときめき」を感じさせるお菓子であってほしいと願っている.
(04. 3. 14)
[追記]大阪にいた子供のころは「ヒロタのシュークリーム」と「551蓬莱の豚饅」はどこにでも売っていると思っていたが,実は「ヒロタのシュークリーム」は京阪神と首都圏でしか売っていない(551蓬莱は京阪神にしかない).関西を離れて12年になり,残念ながら今はどちらもあまり買う機会がないので知らなかったのだが, NIKKEI NETの2003年1月17日の記事によると,「ヒロタのシュークリーム」にも現在は「パイシュー」や「クッキーシュー」があるらしい(写真も出ていたが,記事は削除されてしまった).