「座学」という言葉がある.文字通り「座って学ぶ」という意味で,教室で席について先生の話を聴くという,通常の講義の意味である.
だが,最近,研究室内等の少人数のセミナーでは,私は時折立って話を聞くようにしている.勤め先の大学では,先日部屋割りが変更されて,参加者が数人のセミナーを20人くらい入れる教室で開けるようになった.こういうときには,私は教室の後ろを歩きまわりながら話を聞いている.
なぜかというと,座っていると眠くなるからだ.講義というのは,話すほうにとっては,自分が考えてきたことを自分のやりかたで話す能動的動作だから,かなり長時間でも耐えられる.一方,聞くほうにとっては,初めて講師から聞く話を即座に理解して話についていかなければならないので,緊張を続ける必要があり,体力を使う.ところが,椅子に座って体を動かさずにいると,緊張が緩みやすくなる.少しでも緊張が緩むと眠くなって,そうするとますます話についていけなくなり,そうするとますます眠くなる,という悪循環になってしまう.
こういうとき,立っていると,体を自分で支えていなければならないので,体が緊張を保ちやすくなる.さらに歩き回っていると,常に脚から刺激を受けつづけるので,より緊張を持続しやすい.
飛行機などで長時間座って脚を動かさないでいると血栓症(いわゆる「エコノミークラス症候群」)を起こしやすくなるのは,ふだんは脚の動きが血流を補助しているからだそうだ.そうならば,物を考えるときも,脚を動かしているほうが血の巡りがよくなるのではないだろうか?これはちょっと飛躍しすぎかもしれないが,「哲学の道」というものもあるように,古来学者は歩きながら思索をめぐらせるもののようだ.
そういうわけで,「立って話を聞く」のは私自身は最近気に入っているのだが,もし一般の多人数の講義で受講生がみんなこれをやったら,まさに「学級崩壊」で,収拾がつかなくなってしまう.しかたがないので,90分の講義の真中あたりには少し休憩を入れて,緊張をとりもどせるようにしている.気楽に聴ける話ならいいが,難しい学問の講義を聴くのには,90分は長すぎると思う.
(03. 8. 16)