小学生のころ,珠算塾に通っていた.いまはおそらく違うだろうが,当時は小学校の算数の時間にもそろばんが入っており,庶民の子の習い事としては一般的なものであった.
この塾が一風変わっていて,いろいろな「計算イベント」があった.思い出してみると,次のようなものがあったと思う.
- 「統計算」・・・数字がマス目にびっしりと書いてある用紙が渡され,縦の各列の合計および横の各列の合計をそれぞれ求める.計算が正しければ,「縦の合計の合計」と「横の合計の合計」が一致する.これらの計算が早くできた人から帰ることができ,早く終わるほどたくさんポイントがもらえる.
- 「相撲算」・・・このイベントのある週は,生徒が向かい合わせに座るように机が並べ替えてある.月曜日に塾に行くと,その日の「取組」が掲示してあって,その相手と向かい合わせに座り,計算の問題を解いて点数を競い勝敗を決める.これを一週間続け,勝ち星がもっとも多い者が優勝で,賞品がもらえる.
よく覚えていないが,ほかにもいろいろなイベントがあったように思う.そのたびに賞品がもらえるが,賞品といってもビニールの筆入れだとか,それほど高価なものではなかった.子供にとっては「もらえるとうれしいが,もらえなくてもそれほどくやしくない」ような,うまく選ばれた賞品だったように思う.
また,上に書いた「ポイント」というのは,塾から帰るときにスタンプ帳のようなものに出席点を押してもらい,スタンプ帳がいっぱいになるとやはり賞品がもらえるというもので,イベントでは成績によってポイントが余計にもらえるというものであった.ふだんの授業でも,最後の課題のでき具合によってポイントの数に増減がつけられていた.
ところで,そろばん塾はどこでも「能力別クラス編成」がとられていた.この塾でも2週間に1回昇級試験があり,教室での席順も昇級試験の成績がよかった人が前になった.昇級したばかりで末席にいる生徒にとっては前のほうに座ろうという励みになる.だが,一方で最前列の生徒はもう少しのところで昇級できなかったわけで,末席の生徒が彼らに対してそれほど卑下することもない.
このように,この珠算塾では,競争による刺激を与えながらも,どの生徒も意欲を失うことのないように,勝者と敗者の格差を広げすぎないようにする工夫がなされていた.大学での教育にこの塾の仕組みを取り入れることは難しいが,考え方自体は,教育に携わる者にとって大事なことだと思う.
(03. 6. 20)
[追記]ここまで書いて,ふと思い立って検索してみたら,この塾のことが大阪の情報紙「あるっく」のこのページに載っていた(先生はリンク先のページの右の写真の方です).当時の私にとっては,当時20代だった先生は「そろばんのお兄さん」だったが,実は日本一にもなったことがある大変立派な先生に習っていたらしい.すみません,そろばん自体はすっかり忘れてしまいました.