東風吹かば にほひおこせよ梅の花 あるじなしとて
菅原道真公の有名な歌だが,この続きは「春を忘るな」か「春な忘れそ」か,どちらだろうか.私はずっと「春な忘れそ」が本当で,「春を忘るな」は間違いだと思っていた.「春を」という言いかたは,なんとなく現代語っぽいではないか.
ところが,すこし調べてみると,どうやら「春を忘るな」のほうが道真公のオリジナルで,「春な忘れそ」は改変されたもの,ということらしい1).
まったく,素人の直観というのは当てにならない.だが,ネットで調べてみると,「春な忘れそ」のほうが本物だと思っている人は,私以外にも何人もいるようだ2).
それでも,「春な忘れそ」のほうが,より激しい感情を表しているようで,流されてゆく道真公の歌にはふさわしいのではないか,という感じもする.「春な忘れそ」に変えた人も,そう思って改変したのではないか,などと勝手なことを考えていると,この2つの違いを題材にした短編を見つけた3).ぜひ一度読んでみていただきたい.「(『春を忘るな』のほうが)柔らかい。『忘れるなよ』って、ぽんぽん肩をたたいてるような、そんな感じがするから」という記述にうなずかされる.
私は,以前福岡にいたとき,「不本意にも大宰府にやってきて,『こんな田舎はいやだよう,京都に帰りたいよう』と文句を言いつづけて亡くなったあげく,雷となって京都を襲った道真公を,なぜ福岡の人はこんなに大事にしているのだろう」と不思議に思っていた.しかし,それは道真公の心のうちに対する一面的な見方であるらしい.もっと勉強しよう.
(03. 2. 10)
[追記]大学入試センター試験では,「和歌等が書かれた鉛筆」の持込みは禁止されている.だが,福岡県の受験生には「東風ふかば...」の歌が書かれた,大宰府天満宮のお守りの鉛筆を持っている人が多い.九州工大に勤めていた時には試験監督の際に時々注意していたが,それでも完全には禁止できていないようだ.センター試験の国語の試験には,この歌は絶対に出題されないだろう.
1) 例えば,"SAKURA'S STUDY"というサイトの掲示板の記事(No. 164-165)に,わかりやすく詳細な説明がある.
2) Googleで「春な忘れそ 春を忘るな」を検索してみられたい.
3) このサイトにある「風待花」という作品である.
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