百科事典

先日,大学の研究室に百科事典のセールスマンがやってきた.そういうセールスマンはたいてい適当に追い返してしまうのだが,その日はなんとなく話を聞いてしまった.

そのセールスマンによると,今の日本の百科事典はすべてCDやDVDになってしまい,従来の紙でできたものはもうないそうである.確かに,DVDの百科事典は,分厚い20冊組の百科事典がディスク1枚に収まってしまい,パソコンで自由自在に検索ができる.しかも,出典を明記しさえすれば,図版をパソコンで取り出して使ってもかまわないそうだ.それでいて値段は紙のものの数分の一である.紙の百科事典がなくなってしまうのもしかたのないことである.

しかし,百科事典は,知りたい項目を検索するために使うばかりではない.子供の頃,実家にも百科事典があった.私は,よく百科事典をパラパラ開いては読んでいた.読んだ内容を今覚えているわけではない.しかし,「言葉で説明する能力」の基礎は,百科事典を読むことで養われたと思う.「高度に専門的な知識を,誰にでもわかるように簡潔に記述する」という点で,百科事典を超えるものはなかなかない.

ところが,DVDの百科事典は,「パラパラながめる」ことができない.パソコンの画面では,長時間じっくりと読むのも疲れる.私は,子供ができたら百科事典を与えようと思っていたのだが,それはかなわないのだろうか.文学作品を読むことも必要だが,「言葉で説明する能力」は,生きていく上でより重要なことだと思うのだが.

(03. 2. 14)