漫才と講義

「生活笑百科」という,NHK大阪のテレビ番組がある.日常生活でのトラブルについて,ゲストが素人の目から見た意見を述べ,最後に弁護士が法律上の答えを説明するという番組だ.この手の番組はよくあるが,この番組が変わっているのは,問題になっているトラブルを,司会者がパネルを使って説明したり,再現ビデオを放映するのではなく,漫才師が出てきて漫才で笑わせながら説明することである.

ひとりの人が一方的に話すと,声が一種類しかないので単調になり,眠くなることもある.これに対して,会話によって説明されると,二人の声が交代するので常に刺激を受け続け,話に対する興味が持続しやすい.伝統芸能でも,難しい言葉が単調なリズムで続く能を観るのはかなり忍耐力と知識がいるが,わかりやすい会話によって成り立つ狂言は気楽に楽しめる.

正直に告白すると,大学での私の講義でも,居眠りしている学生が何人もいる.統計学の講義では,日常生活にあらわれるデータの具体例についての話は気楽に理解できるが,そのデータを解析する抽象的な理論の説明を聞くのは忍耐力がいる.そんなとき,「生活笑百科」のように,漫才方式で説明できれば,もっとわかりやすいのではないかと思う.あるいは,ひとりで講義をするにしても,ひとりでたくさんの人物を演じ分ける落語の技術があればいいのにと思う.

当然ながら,漫才や落語の技術は才能のある人が修練によって得るもので,研究の片手間に身に付けられるようなものではない.だが,眠くならないような話の切り替えのリズムやテンポを,漫才や落語から学んでみたいと思う.「芸」を磨くには長い修練が必要だろうが.

(02. 7. 21)