料金踏み倒し

以前,「旅館に泊まって,料金を払わずに夜こっそり逃げ出してしまっても,詐欺でも窃盗でもなく,刑事犯にはならない.なぜならば,詐欺とは誰かを『だます』ことで,夜に誰にも見つからず逃げ出せば誰もだましていない.また,窃盗とは『財物』を盗むことであって,宿泊は財物ではない.つまり,料金踏み倒しは民事上の債務不履行であって,支払い責任こそ免れないが,刑事犯ではない」と聞いたことがある.そういえば,鉄道で多額の不正乗車が発覚しても,追徴金が課されるだけで,刑事犯にはなっていないようである.

ところで,最近,高速道路の料金踏み倒し,つまり料金所の強行突破が横行しているらしい.道路整備特別措置法には「公団等は、...料金を不法に免れた者から、その免れた額のほか、その免れた額の2倍に相当する額を割増金として徴収することができる。」とあるが,徴収にかかるコストのために,実際にはほとんど徴収できていないそうだ.

これでは,踏み倒しのし放題になってしまう.税金を踏み倒せば,脱税犯となり刑事罰をうける.鉄道や高速道路は公共性の高いものであり,その料金踏み倒しは脱税と何ら変わらないはずだ.法律を改正してでも,料金踏み倒しを脱税と同じように罰することはできないのだろうか.

正義の実現は,国家のもっとも重要な仕事のひとつである.たとえ徴収する料金よりも徴収コストのほうが高くても,それは正義の実現に必要なコストだ.警察や裁判所が税金で維持されているように,正義の実現のための費用は,社会の秩序の「維持費」だと思う.

私も現在の高速道路料金は高すぎるとは思う.しかし,高速道路の料金の問題は,道路の建設・維持のコストを誰がどのくらいの割合で負担するかの問題,すなわち,利用者だけが負担するかそれとも社会全体で負担するかの問題で,また別の話だ.

(02. 7. 20)

[06. 5. 9] その後,2004年に道路整備特別措置法が改正され,踏み倒しには「30万円以下の罰金」という刑事罰が課せられることになりました.そして,2006年5月9日,改正後はじめての逮捕者が出ました(Yahoo!ニュース・[キャッシュ]).この問題の状況もこれからは変わっていきそうです.