狂牛病が問題になっている.18日から検査体制が整ったが,これで沈静化するだろうか.
先日,狂牛病の権威という人がテレビのニュース番組で解説をしていた.質問するアナウンサーたちが「要は,安全なのか,危険なのか」という答えを求めるのに対して,権威の先生は回答に困っているようだった.
それは当然で,現に狂牛病が発生して,汚染された肉が市場に流れている可能性がある以上,「絶対に安全」とは言い切れるはずがない.言えるのは「確率」だけである.先生は「イギリスでは18万頭の牛が狂牛病にかかったのに対して,日本ではたった1頭です.そのことをよく考えてください」と言っていたが,質問する側は納得していなかったようだ.
消費者が考えなければならないのは,狂牛病(による変異性クロイツフェルト・ヤコブ病)にかかったときのコストと,狂牛病を避けるのに必要なコストの比較である.「避けるのに必要なコスト」には,牛肉が食べたいのに我慢するという「不満」も含まれる.コストは,(損失の評価額)×(その損失が生じる確率),つまり損失の期待値で求められる.それを考えれば,変異性ヤコブ病のコストは「避けるのに必要なコスト」よりもはるかに低いはずで,交通事故に気をつけるほうがよほど重要なはずだ,ということになる.
やはり,納得しない人が多いのではないだろうか.「期待値がどうだといっても,個人個人にとっては変異性ヤコブ病にかかるかかからないかどちらかで,かかってしまったら大変なのだから,やはり牛肉は避けよう」ということになる.ごく自然な感情で,人間はそれほど合理的には行動しない.こんなとき私は統計学の限界を感じる.
(01. 10. 26)