ノーベル化学賞を受賞した名古屋大学の野依教授は,新聞報道では「大変厳しい教授」と紹介されている.実際のところ,研究室の大学院生は実験また実験に追われる,いわゆる「馬車馬系研究室」なのではないかな,と想像される.これは特別なことではなく,実績をあげている実験系の研究室はみなそうだ.そうでなければ研究業績などあがらない.それに,大学院生も大変かもしれないが,それを率いる教授はたいてい超人的な体力と意志力の持ち主で,普通の人の何倍もの仕事量をこなしており,決して学生をこき使って自分が楽をしているわけではない.
だが,学生時代に,ある教授のこんな噂を聞いたことがある.その教授が,「助手や学生をこきつかって,業績を横取りしている」という批判に対して,「大阪城を造ったのは豊臣秀吉だ.大工ではない」と答えたというのだ.
ちょっとその教授はひどいのではないだろうか.確かに大阪城を造ったのは豊臣秀吉だが,大工がいなくては城は造れないのだ.しかも,大工は給料をもらっただろうが1),学生は無給なのだ.教授は感謝をもって報いなければならないと思う.2)
また,日本に大学はたくさんあるが,能力のある大学院生を多数集めて研究を進められる大学というのは,それほど多くはない.さっきの教授は,大阪城を造れる大工を集められる地位にあることにも,感謝すべきである.
(01. 10. 13)
1) 大阪城や聚楽第の建設は,一種の公共事業で,これによって豊臣家の所有する金銀が市中に出回り,経済が潤ったといわれている.
2) 感謝するどころか,「学生には労働基準法はない」「大学院生など首から下の手足だけあればいい.口があれば文句を言う」と言い放った教授もいるという.