先日選挙があった.日本の選挙では,投票用紙には候補者の名前や政党名を自筆で書くことになっている.実は,私はこの「見ず知らずの他人の名前を書く」というのが,どうも苦手である.なぜか,恥ずかしさを感じるのだ.選挙のときも,記入台の上に貼ってある候補者名を確かめて,そそくさと鉛筆を動かして名前を書き,急いで投票用紙を折っている.
昔は,人の名前を呼ぶことには特別な力があるので,みだりに人の名前を呼んではいけないことになっていたらしい.清少納言や紫式部の本名が不明なのもこのためだそうだが,なんとなくこの気持ちはわかるような気がする.
高校時代の英語の先生に,生徒を番号で呼ぶ先生がいた.「人間扱いされていないようで嫌だ」という意見が多かったが,この先生も私と同じように,生徒の名前をよぶのが気恥ずかしかったのではないだろうか.
勤め先の大学内でも,学部長や各委員を選ぶ選挙がある.同僚の先生に「他人の名前を書くのはどうも恥ずかしい」という話をしたら,「選挙というのは,他人に名前を呼んでもらったり書いてもらったりするのが好きな人が出ているんだから,書いてあげたらいいじゃない」と言われた.なるほど確かにそうだ.
(01. 8. 2)