森首相は「私が行かなかったことで,何か遅れたんですか? 何も遅れてないでしょ.」と言っていた.今は通信手段が発達したおかげで,ゴルフ場にいたって指示はできる.確かにそのとおりだと思う.
また,大問題が起きたんだから,ゴルフのような遊びは即刻止めるべきだという意見にも,無条件には賛成できない.それは,おとなしく無難に振舞う「ポーズ」をとっておけば,それでいいという考えに通じる.「ポーズ」よりも,やるべきことをやるほうが大事だ,阪神大震災の時,神戸の人が「神戸で大災害があったからといって,全国の人がイベントなどを自粛する必要などない.そんなポーズよりも,再建への実質的な援助をしてほしい」というようなことを言っていたが,まったくそのとおりだ.
しかし,それは森氏が首相でなければ,の話だ.トップには「ポーズ」こそが意味がある.すなわち,自分が先頭で行動すること自体が象徴的意味を持つ.金正日氏は,ただ自分で空港に金大中氏を出迎えるだけで,株を一気に急上昇させた.トップが「自分で」何かを行うことの影響力を如実に表す例である.
今回の事件は痛ましく,また潜水艦の行為は許しがたいものである.だが,森首相にとってみれば,率先して指揮をとることで,これまでの国民的不人気をひっくり返し「なかなかやるじゃない」といわせる,一種の「チャンス」だったのではないだろうか.
(01. 2. 19)
(04. 2. 24改訂)
[04. 9. 5追記] 先日の沖縄での米軍ヘリコプター墜落事故について,稲嶺沖縄県知事が小泉首相に面会を求めたにもかかわらず,首相は「夏休み」を理由に断り,その一方でアテネ五輪の金メダリストには直ちに祝福の電話をした,ということが雑誌「AERA」2004年9月6号で報じられている.この件も上の森首相の件とあまり変わらないと思うが,マスコミではそれほど批判されていない.
つまり,当時は「森首相ならいくら叩いてもいい」という雰囲気が作られていたわけで,これは「いじめ」と同じ構造である.当時の自分もそのような雰囲気に乗って上のような記事を書いたことを,今は恥ずかしく思っている.そのことを忘れないように,あえてこの記事はこのまま残しておくことにする.