合理的思考

加藤友三郎という昔の海軍の軍人がいる.日本海海戦の時の参謀長で,後にワシントン海軍軍縮会議全権や首相を務めた人物である.

加藤は「合理的思考」の持ち主として知られていたという.あるとき,東郷平八郎司令長官が「百発百中の大砲一門は,百発一中の大砲百門に勝る」と訓示するのを聞いて,加藤は「百発一中の大砲の弾百発のうち,1つでも百発百中の大砲一門に当たったら,それで戦は終わりだ」と言ったと伝えられている.

ちょっと計算してみよう.当たる確率が1/100の大砲100門が,相手方の1つの大砲を狙っていっせいに発射されたとする.各大砲の当たり外れは他の大砲に無関係とすると,100発の弾のどれかが当たる確率は,「1 - (100発の弾すべてが外れる確率)」すなわち 1 - (99/100)100で,63.4%である.「百発百中の大砲」が,相手の大砲百門を一撃で破壊できる原子爆弾でも発射しない限り,絶対に「百発一中の大砲百門」が勝つ.

もちろん,東郷は,軍人の士気を高め技術を向上させるために,こういうたとえ話をしたのだろうし,加藤もそのことは当然承知していただろう.しかし,権威ある人の「百発百中の大砲一門は...」のような話を無批判にうのみにせずに,加藤のように即座に「合理的思考」ができることは,民主主義社会の市民として大事なことではないだろうか.

このような合理的思考様式を身に付けることこそが,数学を学ぶ理由だと私は思う.2次方程式を知らなくても生きてはいけるだろうが,方程式を立てて考えるような合理的思考ができなければ,烏合の衆のひとりにしかなれない.

(01. 2. 15)

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