小学生の時,国語の時間に「拾う」の反対語は「捨てる」だと習った.
私は,納得がいかなかった.「落し物を拾う」というではないか.「拾う」の反対は「落とす」に違いない.捨てたものを拾うよりも,落としたものを拾うほうが普通のはずだ.
食い下がる私に,先生は「じゃあ,なぜ『右』の反対が『左』か説明できるか?」などと言ってごまかしてしまった.教室で私の前の席に座っていた,優等生タイプの女の子が,ふりむくなり「『捨てる』に決まってるでしょ!」と馬鹿にするように言ったその声が,今でも記憶に残っている.
ところで,最近気になるのが「『デジタル』の反対語は『アナログ』か?」ということである.デジタル機器が苦手だったり,デジタル機器を使うのが嫌いな人のことを,よく「アナログ人間」などと言っているが,これはおかしいと思う.文章を書くのにパソコンを使っても鉛筆を使っても,文字や記号を連ねて情報を記述すること自体は同じであって,パソコンで書くのがデジタルで鉛筆で書くのがアナログ,とはならないはずだ.
形がなく目に見えない「量」を目に見えるようにするために,量を時計の針の位置などの「物」に置き換えるのが「アナログ」,量を何かの目盛りで測った値を数字で書くのが「デジタル」である.これらは「量」を表す二大手法であって,対等な考え方ではあるが,反対の考え方ではない.
それにしても,「アナログ人間」などという表現を見るたびに,「拾う」と「捨てる」の問題を思い出す.そもそも,「『拾う』の反対語」というのをどうしてもひとつに決めなければならないのか,いまだに疑問である.
(01. 1. 31)
[02. 8. 4追記] 読者の方から,「わが家では,『捨てる』の反対語は『取って置く』ということになっています」というメールをいただきました.実は私たち夫婦も物を捨てられないほうで,何でも取って置くので,引越しのときにいつも途方にくれています.