大学の郊外移転

ほとんどの国立総合大学は,戦後に各県ごとに国立の高等教育機関を統合して発足した.このため,県内にキャンパスが分散している,いわゆる「タコ足大学」になっており,これを1ヶ所にあつめる統合移転が各大学で行われている.私が勤めている広島大学も,戦後長らく何ヶ所かに分散していたが,近年東広島市に統合移転を果たした.ここは,広島市の中心部から東へ40kmの台地にあり,まわりには山も田んぼもたくさんあるところである.

最近は,都市部で大きな敷地を確保するのが難しいため,新しい大学はたいてい郊外あるいは山間部に建設されている.総合大学は,大きいところでは教職員・学生あわせて1万人以上を収容する施設だから,都市部には建設できないのは仕方のないところである.しかし,この大学の郊外移転は,教員・学生どちらにも不評である.その理由は,だいたい以下のようなものに大別される.

  1. 郊外の大学は交通が不便で,アルバイトをするところも遊ぶところもない.
  2. 不便な土地を受験生が嫌うため,入学してくる学生のレベルが落ちてしまった.
  3. 教職員・学生がみな自動車で通勤・通学するため,駐車場不足・交通事故の多発といった問題が生じる.
  4. 大学のそばに下宿している大学生は,休日等には都心部に出てしまい,地元の商店街等の活性化に貢献しない.
  5. 広い大学構内が夜はほとんど無人になるため,強盗・恐喝や性犯罪が発生する.

1については,「大学は勉強するところなのだから,遊ぶところなどなくてもよいではないか」という方もあるかも知れない.しかし,大学教員や学生は仙人ではない.刺激のないところで,霞を食って研究や勉強だけをひたすら続けることはできない.また,学生が勉強するところは大学の中だけではない.自分の責任だけで自分の時間を管理できる大学生にとって,大学の外へ1歩でたら何もないのではかわいそうというものだ.だから,2.のようなことになるのもしかたないところである.

大学の郊外移転に関しては,一般にあまり認識されていないことがある.大学が「郊外の○○市」に移転する時,それは○○市の中心部に移転するのではない.いくら郊外でも,○○市駅の前にそんな大きな土地は確保できない.大学は,郊外のそのまた郊外に移転するのだ.都心部から○○市駅まで電車で30分くらいだとしても,たいがいの郊外移転大学は○○市駅からバスで20分,さらに徒歩15分などという町はずれにある.大規模な総合大学は1万人規模だと上に書いたが,それは昼間だけのこと,夜は大学内はほとんど無人になる.だから,バスの便も夜になると急に減り,大学は陸の孤島になってしまう.したがって,たいがいの教職員や,研究室に居残るようになる高学年の学生・院生は自動車を利用することになって駅前等にはよりつかず,上の3,4のような問題が生じる.また,大学の広い敷地は,建物から人がいなくなってしまうと巨大な公園のようなものだから,5のように夜は大変危険である.

広島大学にも1万人以上の教員・学生がいるので,かつては田んぼと山ばかりだった大学のまわりにも,学生下宿だけでなく飲食店・スーパー等も誘致されて,新しい学生街ができている.しかし,大学の敷地面積が大きいため,大学の建物によっては学生街まで徒歩30分以上かかってしまう.また,学生下宿は広い範囲に散らばっているので,徒歩で学生街に出かけるのも,車で郊外型大型店に出かけるのも,手間は大して変わらないことになってしまう.そこで私に1つ案があるのだが,「大学と街を重ねて作る」というのはどうだろうか.各学部や図書館の間に,店や住宅や街自体を作ってしまうのだ.こうすれば,24時間住人がいるので,バスの便もよくなり,車を利用する必要もなくなって,地元にもお金が落ちるのではないだろうか.

(01. 1. 28)