「UNI+」というパソコン用オペレーティングシステム(OS,いわゆる「基本ソフト」)をご存じだろうか.「ユニックロス」と読む.「UNIX(ユニックス)」ではない.
これは,パソコン関係の出版社のアスキーが毎年エイプリルフールに発行していた雑誌「年刊Ah!Ski」に掲載されていたもので,なんと「BASIC言語で書かれたOS」である.「Ah!Ski」は,掲載されている記事はすべて冗談やパロディなのだが,記事中のプログラムリストはすべてパソコンで実際に動作する1),という面白い雑誌で,「UNI+」もUNIXのパロディとして掲載された.
その後,アスキーは「UNI+」を発展させ,「私たちは本気です」と銘打った「μUX」を解説書とともに発売した.これは,本物のUNIXの構造を,できる限りBASIC言語で模倣したものであった.
私は,そもそもOSとは何かということから,カーネルやコマンドシェルといったOSの各モジュールの機能,プログラムの配置とメモリの配分など,OSの基礎知識をこの「μUX」を通じて学んだ.これは,1985年,私が大学3年生のころの話なのだが,その後大学院生になってから,初めて本物のUNIXに触れたとき,「μUX」で学んだ知識は大変役に立った.
「μUX」の解説書は,「このμUXを機械語で組みなおすと,本格的なパソコン用OSになります.どなたかパワーのある方,やってみませんか」という言葉で終わっていた.現在のLinuxやFreeBSDなどのUNIXライクOSは,まさにこれを実現したものということができる.しかし,これらのOSが登場するには,「パワーのある人」が一人だけでは不足で,パワーのある人々が協力するためのインターネットが必要であった.「UNI+」や「μUX」は,ちょっと登場が早すぎたようである.
(01. 9. 5)
1) 当時のパソコンはMS-DOSやWindowsではなく,BASIC言語のプログラムが動作する環境が必ず装備されており,OSの機能やプログラム開発環境もこれと一体になっていた.パソコン雑誌には,ゲームなどのプログラムの,BASIC言語や16進数の機械語のリストが掲載されており,読者はこれを手でパソコンに入力して利用していた.