狼少年の地震予知

ちょっと大きな地震が起きるごとに,「どこそこの研究グループがこの地震を予知していた」という記事が週刊誌に出る.「前の○○地震も,その前のも予知していた」という書いてあることも多い.

しかし,「地震が起きたときに,確かにそれを予知して警報を出した」ということだけでは,その地震予知法が有効であることにはならない.それは,「狼少年」の話を思い出せばすぐわかる.

あの話の最後で,本当に狼が来たときに「狼が来た!」と叫んだ狼少年は,それが誰にも信じてもらえず狼に食われてしまった.しかし,このとき狼少年は確かに正しいことを言っているのだ.それなのになぜ信じてもらえなかったかといえば,狼少年は狼が来ていないときもしょっちゅう「狼が来た!」と叫んでいたからだ.

地震予知も同じで,いくら地震が来たときに正しく予知していたとしても,地震が来ないときにもしょっちゅう「地震が起こる!」と叫んでいては,予知の結果は信用してもらえない.

もうすこし数学的に考えてみよう.「狼少年が本当のことを言っている確率」つまり「『狼が来た!』と狼少年が叫んだ時,本当に狼が現れている確率」は,「『狼が来た!』と狼少年が叫んだ回数のうち,確かに狼が現れた回数の割合」であり,すなわち

 「本当に狼が現れたときに『狼が来た!』と狼少年が叫んだ回数」
÷「『狼が来た!』と狼少年が叫んだすべての回数」
である.例えば,今までに狼が10回現れ,その10回とも確かに「狼が来た!」と狼少年が叫んでいたとしても,狼少年が狼が来ていない時に90回「狼が来た!」と叫んでいたら,「狼少年が本当のことを言っている確率」は10分の1でしかない.

数学ではこれを「ベイズの定理」というが,上の通りとくに難しい話ではない.地震予知技術を記事にするときは,きちんとこういう議論をして,信頼性について評価すべきだと思う.

(01. 4. 16)