レトロな未来

21世紀になり,かつて「21世紀の未来図」として描かれていたものと現実との比較がよく話題になっている.「昔描かれた未来図を見ると,未来の様子のはずなのに懐かしく思えて,不思議な気分になる」と書いている人もいた.いわば「レトロな未来」である.確かに,「宇宙大作戦」のエンタープライズ号の船内は,いま見るととても古臭く感じる.

この古臭さの最大の原因は,当時の人が「液晶ディスプレイ」と「グラフィカルユーザーインターフェース」の出現を想像できなかったことにある.エンタープライズ号のブリッジにしても,「科学特捜隊」や「ウルトラ警備隊」の基地にしても,ランプとボタンがたくさん並んでいる.当時は,「何々をするボタン」「何々を表示するランプ」というように,ひとつのランプやボタンがひとつの機能をもつのが当然だったのだ.

以前,ある人が「パソコンは,『何をするボタン』というのがキーボードに書いてないから,わかりにくい」と言っていて,それに対してパソコンの講師が「もし『何をするボタン』をいちいち全部つけたら,ボタンの数が千個でも足りなくなりますから,我慢してください」と答えているのを見た.できることなら,昔の「ボタンとランプ」のほうが,わかりやすいインターフェースなのかもしれない.そういえば,電車の切符の自動販売機は,タッチパネル式もあるが,やはりボタンが並んでいるものが多い.大阪の地下鉄に,一時,テンキーのついた自動販売機があったが,きわめて不評であった.

子供のころ読んだ星新一氏のショートショートに,「気象衛星の映像から,街の食堂のサンプルまで,なんでも家のテレビで見られる」という世界を描いた,現在のインターネットやワールドワイドウェブを予言している作品がある.しかし,その作品中でも,「テレビを『有線放送』に切り替え,6つあるチャンネルつまみを000001にあわせると,気象衛星の映像が流れる」「近々,チャンネルつまみがひとつ増えるという話がある」といった内容の記述がある.大作家の想像力をもってしても,未来を予言するのはむずかしい.

[お願い]星新一氏のこの作品の題名を,私は「有線放送」だとばかり思っていたのですが,どうも違うようです.どなたか,題名と所収の文庫本をお教え願えませんでしょうか?

(01. 2. 13)